「ホームページは整えたし、口コミも少しずつ増えてきた。それでも初診の予約がなかなか伸びない」。こうした悩みを抱えるクリニックで、次の一手として名前が挙がるのが動画です。とはいえ、実際にいくらかかるのか、医療広告のルールに引っかからないか、作ったあと誰が更新するのかなど、気になる点も多いと思います。
この記事では、厚生労働省の受療行動調査、総務省のメディア利用調査、そして自治体や公立病院が実際に公募した動画制作の予算額といった公的データをもとに、クリニックが動画を作る意味と費用相場をまとめました。後半では、SNSやYouTubeでの継続的な発信の効果と、2026年3月に改訂された厚生労働省の事例解説書を踏まえた注意点も紹介します。
クリニックの動画制作が必要な理由|患者は受診前に情報を探している
動画が必要かどうかを判断する前に、患者がどうやって医療機関を選んでいるのかを確認しておきましょう。国の統計を見ると、受診前に情報を集める人はすでに多数派です。
受療行動調査に見るクリニック選びの情報収集の実態
厚生労働省は3年ごとに受療行動調査を行っています。最新の令和5年調査(概数)では、全国の一般病院489施設を利用する外来・入院患者約15万3千人を対象とし、約10万4千人から有効回答を得ています。
この調査によると、ふだん医療機関にかかる際に「情報を入手している」外来患者は80.7%でした。入手先で最も多いのは家族・友人・知人の口コミ(68.4%)です。次いで医療機関が発信するインターネットの情報が28.8%、SNSや電子掲示板、ブログを含む「医療機関・行政機関以外が発信するインターネットの情報」が18.1%となっています(出典1)。

出典:厚生労働省「令和5(2023)年受療行動調査(概数)」をもとに作成
看板やパンフレットは5.6%にとどまり、ネット上の情報が口コミに次ぐ位置にあります。この調査の対象は一般病院の患者なので、診療所だけの数字ではありません。それでも「受診前に何かしら調べる」という行動は、クリニックでも変わらないでしょう。
口コミで名前を知り、ネットで確かめてから予約する。この「確かめる」段階で、文章と写真だけでは伝わりにくい院内の雰囲気や医師の人柄を補えるのが動画です。
YouTube利用率81.5%、動画で調べるのはもう特別なことではない
総務省情報通信政策研究所が2026年6月に公表した令和7年度の調査は、13歳から79歳の1,800人を対象にしています。主なサービスの利用率はYouTubeが81.5%、Instagramが54.8%、TikTokが36.7%でした。1日の平均利用時間も、平日でインターネットが183.9分、テレビ(リアルタイム)が156.1分と、ネットがテレビを上回っています(出典3)。
小児科なら子育て世代、内科や整形外科なら中高年と、クリニックの患者層は幅広いものです。その大半がふだんから動画に触れている、という前提で情報発信を考える時期に来ています。
自治体や公立病院も動画による発信と人材確保に動いている
福島県のいわき市医療センターは2025年、センターの概要や地域で担う役割を市民や医療関係者に伝えるPR動画の制作を公募しました。完成した動画は院内外での説明に使うほか、YouTubeなどへの掲載も想定しています。企画提案にあたっては、医療広告ガイドラインの趣旨を踏まえた表現を求めていました(出典4)。
採用の面では宮城県の例があります。県内の人口10万人あたりの看護師数は934.4人で、全国の1,049.8人を下回っています。県はこれを課題とし、県内病院で働く魅力を伝える動画の制作と、その視聴を増やすプロモーションを一体で委託しました(出典5)。
行政が「集患」と「採用」の両方で動画を使い始めていることは、クリニックにとってもひとつの判断材料になります。
クリニックの動画を作ることのメリット
写真や文章では伝えにくい院内の空気や人柄を、そのまま届けられるのが動画の強みです。クリニックで特に効果が出やすい場面を3つ紹介します。
動画で初診の不安を和らげ、来院のハードルを下げる
初めてのクリニックに行く患者は「先生は話しやすい人だろうか」「どんな検査をされるのだろう」と不安を抱えています。院長が落ち着いた口調で診療方針を話す姿や、受付から診察室までの流れ、清潔に保たれた院内を事前に見てもらえれば、その不安の多くは来院前に解消できます。
ポイントは、治療効果をアピールするのではなく、医師の経歴や診療時間、設備といった事実を丁寧に見せることです。後で触れる広告規制の面から見ても、「どんな場所で、どんな人が診てくれるのか」を正直に伝える動画がいちばん安全で、信頼にもつながります。
待ち時間や説明の負担を減らすクリニック院内での動画活用
受療行動調査の確定数では、外来患者が最も不満を感じている項目は「診察までの待ち時間」で、25.5%が不満と答えています(出典2)。
待合室のモニターで検査の流れや院内での過ごし方を流しておけば、待ち時間の感じ方は変わります。同じ説明を何度も口頭で繰り返しているスタッフの負担も軽くなるでしょう。ホームページ用に撮った素材を院内向けに編集し直せば、追加の費用も抑えられます。
採用動画でクリニックの「一緒に働く人」を見せられる
看護師や医療事務の採用では、給与や休日だけでなく「どんな人たちと働くのか」が応募の決め手になります。スタッフが働く様子や先輩のインタビューを動画で見せれば、求人票の文字だけでは伝わらない職場の雰囲気が届きます。入職後の「思っていたのと違う」を減らす効果も期待できます。
クリニックの動画制作費用の相場と内訳
動画制作の費用は、何を、どこまで、誰に頼むかで大きく変わります。民間の実勢価格と公的機関の発注額の両面から、相場をつかんでおきましょう。
種類別に見るクリニック動画制作の費用相場
マッチングサービスのミツモアが公開している用途別の相場を、クリニックでの使い方に当てはめると次のようになります(出典6)。

これは一般企業向けの相場ですが、クリニックの紹介動画や採用動画も構成はほぼ同じです。院長インタビューと院内紹介を中心にした数分の動画なら、数十万円台から検討できるケースが多いと考えてよいでしょう。
自治体・公立病院の公募データから見る動画制作費用の上限感
より客観的な基準として、公的機関の発注額も見ておきます。いわき市医療センターのPR動画作成業務では、提案限度額が税込121万円でした(出典4)。宮城県の看護職員採用向け病院PR動画制作事業は委託上限額が税込500万円です。ただしこれは、参加する複数の病院の動画制作と、視聴数を伸ばすためのプロモーションまでを含んだ金額です(出典5)。
病院1施設のPR動画を企画から編集まで一括で頼む場合、100万円前後がひとつの上限の目安になります。クリニックであれば撮影範囲も出演者も限られるので、多くの場合これより手頃な価格に収まります。
医療機関ならではの費用が上乗せされるポイント
クリニックの撮影には、一般企業にはない事情があります。診療中は撮影できないため、休診日や診療時間外に撮影日を設ける必要があります。患者が映り込まないようにする配慮や、出演するスタッフの同意取得も欠かせません。さらに、広告規制に照らした表現の確認や修正にも手間がかかります。
見積もりを比べるときは、金額だけでなく、こうした医療ならではの対応が含まれているかを確認しておきましょう。
動画は作って終わりにしない|クリニックのSNS・YouTube運用で効果を育てる
紹介動画を1本ホームページに置いただけでは、見てもらえる機会は限られます。効果を大きく左右するのは公開後の「運用」です。日々の発信がなぜ効くのか、どう回していけばよいのかを整理します。
継続的なSNS・YouTube発信がクリニックへの信頼を積み上げる
受療行動調査で最も多かった情報源は、家族や知人の口コミでした。SNSで定期的に発信していると、「あの先生、Instagramで花粉症の話をしていたよ」というように、投稿そのものが口コミの材料になります。一度きりの広告と違い、発信を重ねるほど「受診するならここ」という候補に入りやすくなります。
YouTubeは検索される場所でもあります。「子どもの発熱、受診の目安は」「胃カメラってどんな流れ?」といった、患者が実際に調べる疑問に答える動画は、公開から時間が経っても見られ続けます。一方、InstagramやTikTokの短い動画は、休診日のお知らせやスタッフ紹介など、日々の小さな情報を届けるのに向いています。
外注と院内撮影を組み合わせたクリニック動画のハイブリッド運用
すべての動画を制作会社に頼むと、YouTube用だけでも1本あたり数万円からかかり、続けるのは大変です。現実的なのは、クリニックの顔になる紹介動画や採用動画はプロに任せ、日々の短い動画は院内でスマートフォンを使って撮る「ハイブリッド運用」です。
【図:制作から運用までの流れ(前回作成の図版をそのまま使用)】
院内で撮る動画は、完璧な映像でなくて構いません。院長やスタッフが自分の言葉で話す素朴な動画のほうが、かえって親しみを持ってもらえることもあります。撮影のコツや投稿ルールを最初に制作会社と決めておくと、院内での運用がぐっと楽になります。
医療広告等ガイドラインを守ったSNS・動画発信のルール
クリニックが発信するうえで必ず押さえておきたいのが、医療法に基づく広告規制です。厚生労働省は「医療広告等ガイドライン」に加え、ネットパトロールで集まった実例をまとめた「事例解説書」を公表しています。現在の最新版は、2026年3月30日付の事務連絡で示された第6版です(出典7)。SNS・動画の事例は2025年3月の第5版で大きく拡充されました(出典9)。
事例解説書から、動画で特に注意したい点をまとめます(出典8)。
治療の内容や効果に関する患者の体験談は、映像や音声でも掲載できません。第6版では、患者が副作用について話す場面も体験談として扱われることが明記されました。術前術後の画像を使う場合は、治療内容や費用、主なリスク・副作用といった説明を、動画の中で画像の近くに示す必要があります。自由診療を紹介するときも同じ情報を、動画本編、またはプロフィール・タイトル・概要欄との組み合わせで、まとまった形で示さなければなりません。自院ホームページへのリンクだけでは不十分とされています。キャンペーンや割引を強調する表現も認められていません。
見落としやすいのが、院長やスタッフの個人アカウントです。医療機関が特定でき、受診を促す内容であれば、個人の発信でも規制の対象になります。また、バナー広告やリスティング広告のように費用を払って表示させる広告では、広告できる内容が法令で定められた事項に限られます(出典8)。SNS上の有料広告も同じ考え方で運用しておくと安心です。
ルールと聞くと身構えてしまうかもしれません。ただ、事実を誠実に伝えるという原則さえ守れば、発信できることはたくさんあります。ガイドラインに沿った発信を積み重ねること自体が、患者から信頼されるクリニックであることの証明にもなります。
クリニックの動画制作・SNS運用は株式会社um.へご相談ください
クリニックの動画は、1本作って終わりではありません。目的に合った動画を作り、日々の発信で育てていくことで、本当の効果が出てきます。
株式会社um.は横浜を拠点とするクリエイティブプロダクションです。企画・構成から撮影、編集までをワンストップでお手伝いしています。クリニック紹介動画や採用動画はもちろん、YouTubeやInstagram向けの短い動画、院内で撮影を続けていくための運用設計まで、貴院の予算や目的に合わせてご提案します。休診日に合わせた撮影スケジュールの調整や、医療広告等ガイドラインを意識した構成づくりもご相談ください。
「まずは費用感だけ知りたい」「院内でどこまで撮れるか相談したい」という段階でのお問い合わせも歓迎しています。クリニックの動画制作やSNS・YouTube運用をご検討の際は、ぜひ株式会社um.までお気軽にお問い合わせください。
出典
- 厚生労働省「令和5(2023)年受療行動調査(概数)の概況 結果の概要」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jyuryo/23/dl/gaisu-kekka2023.pdf /同報道発表資料 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jyuryo/23/dl/gaisu-houdou2023.pdf
- 厚生労働省「令和5(2023)年受療行動調査(確定数)の概況 結果の概要」 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jyuryo/23/dl/kakuteisu-kekka2023.pdf
- 総務省「令和7年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」の公表 https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01iicp01_02000130.html
- いわき市医療センター「いわき市医療センターPR動画作成業務委託 公募型プロポーザル実施要領」 https://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1752797390439/files/youryou.pdf
- 宮城県「令和7年度宮城県看護職員採用に向けた病院PR動画制作事業業務の企画提案を募集します」 https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/iryoujinzai/hp-prmovie-boshu.html
- ミツモア「用途・長さ(尺)別の動画制作の料金相場とは?費用を抑えるコツも解説」 https://meetsmore.com/product-services/CM-video-advertisement-production/media/208535
- 厚生労働省「医療法における病院等の広告規制について」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html
- 厚生労働省「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第6版)」 https://www.mhlw.go.jp/content/001683116.pdf
- 厚生労働省医政局総務課「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第5版)について」 https://www.mhlw.go.jp/content/001440134.pdf
