「新人に同じ説明を何度もしている」「ベテランが辞めたら、作業のコツが分からなくなりそう」。こうした悩みを持つ会社で、紙の手順書の代わりに使われ始めているのが動画マニュアルです。ただ、いざ導入しようとすると「本当に効果はあるのか」「外注するといくらかかるのか」が分からず、検討が止まってしまうことも多いのではないでしょうか。
この記事では、公的機関の調査データと、自治体が実際に発注した動画の仕様書をもとに、動画マニュアルの導入効果と制作費用の目安をまとめました。動画にすると効果が出やすい業務の見分け方や、作るときに気をつけたいポイントも紹介しています。マニュアル動画の作成を考えている担当者の方は、参考にしてください。
動画マニュアルとは|紙のマニュアルとの違い
最初に、動画マニュアルとはどのようなものか、どんな業務に向いているのかを整理します。すべてのマニュアルを動画にする必要はありません。向いている業務を選ぶことが、費用を無駄にしないための第一歩です。
動画マニュアル(マニュアル動画)とは
動画マニュアルは、作業の手順や、機械・システムの操作方法を、映像と音声、字幕で説明するマニュアルです。「マニュアル動画」と呼ばれることもあります。紙やPDFのマニュアルは文字と写真で説明するので、手の動かし方や作業のスピード、画面のどこをクリックするのかといった細かい部分は伝わりにくいものです。動画なら、慣れた人の実際の動きや操作の流れをそのまま見せられるので、見る人によって受け取り方がばらつきにくくなります。
研修動画との違い
動画マニュアルと似たものに研修動画があります。研修動画は、ビジネスマナーやハラスメント対策のように、考え方や知識をまとめて学ぶための動画です。30分から1時間ほどの長さになることも珍しくありません。
一方、動画マニュアルは「この作業をこの順番でやる」という具体的な手順を伝えるもので、仕事中に分からなくなったとき、その場で見返す使い方が中心です。そのため、1本を短くして、知りたい手順をすぐに探せる作りにしておくことが大切です。研修動画の費用や、外注と内製の分け方については「研修動画の動画制作費用と外注のポイント5選(https://um-cre.com/column/training-video-cost/)」で詳しく紹介しています。

動画マニュアルに向いている業務・向いていない業務
動画マニュアルが特に力を発揮するのは、動きやタイミングを伝える必要がある業務です。製造現場の作業手順、機械の操作、接客の所作、調理の手順、業務システムの入力方法などは、文章で読むより動画で見たほうが早く伝わります。反対に、規程の細かい条文や数値の一覧、よく変わる連絡事項などは、検索しやすい文書のほうが便利です。動きや画面の操作は動画、調べたり確認したりする情報は文書と使い分けると、手間と費用を抑えながら効果を出しやすくなります。迷ったときは、「新人が文章を読んだだけで、一人で同じ作業ができるか」を考えてみてください。難しいと感じる手順ほど、動画にする価値があります。
動画マニュアルの導入効果|公的調査で分かる3つのメリット
動画マニュアルの効果は、公的機関の調査にも表れています。労働政策研究・研修機構(JILPT)が2026年5月に公表した製造業の企業向け調査では、技能継承を進めるためにデジタル技術を使っている企業のうち、41.7%が「動画によるマニュアル作成・共有」を取り入れていました。ここでは、この調査結果をもとに、動画マニュアルの導入効果を3つに分けて紹介します。

技術やノウハウを見える化・標準化できる
動画によるマニュアル作成・共有を取り入れている企業のうち、86.8%が効果として「継承すべき技術の見える化・標準化」を挙げています。同じ調査では、技能継承が「うまくいっている」「ややうまくいっている」と答えた企業は合わせて33.3%にとどまりました。
ベテランの技術をどう残すかに、多くの会社が苦労していることが分かります。慣れた人の手元の動きや判断のタイミングを映像で残しておけば、担当者が退職や異動をしても、同じやり方を次の人に引き継ぎやすくなります。
教える人の時間を減らせる
同じく動画マニュアルを取り入れている企業の67.7%が、「教育にかかる時間の短縮」を効果に挙げています。技能継承がうまくいかない理由として「時間的な余裕がない」と答えた企業は50.0%に上ることから、動画マニュアルは教える人の時間不足を補う方法の一つと言えるのではないでしょうか。基本の手順は動画で先に見てもらい、現場での指導は応用や質問への対応に集中する、という分担ができるからです。
場所や時間を選ばずに学べ、外国人スタッフにも伝わりやすい
64.1%の企業は、「画像、データ等の活用により場所や時間の制約なく技能継承が可能」になったと答えています。シフト勤務で全員がそろう時間を作りにくい職場や、複数の拠点がある会社にとっては大きなメリットです。
また、厚生労働省の発表では、2025年10月末時点の外国人労働者数は2,571,037人で、届出が義務になった2007年以降で最も多くなりました。手本を映像で見せ、字幕をスタッフの母国語でも用意しておけば、日本語の文章だけのマニュアルより理解の差が出にくくなります。
動画マニュアル作成の費用相場|種類別の目安と自治体の発注事例
動画マニュアルの制作費用は、作り方によって大きく変わります。ここでは、種類別の費用の目安と、自治体が実際に発注した動画の事例を紹介します。
種類別に見たマニュアル動画の費用目安
制作会社に依頼する場合、画面録画と合成音声で作るシステム操作や手続きの説明動画は、1本(5分前後)で10万〜20万円ほどが目安です。スライドや図にナレーションを付けて社内ルールや接客の基本を説明する動画は15万〜30万円ほど、現場で撮影する作業手順や技能継承の動画は、撮影日数や出演する人数によって20万〜50万円ほどになります。
外国人スタッフ向けに多言語の字幕を付ける場合は、訳す文字の量や言語の数に応じて費用が加わります。いずれも当社が考える一般的な目安で、内容や本数によって変わります。

自治体の発注事例|画面と読み上げ音声で数をそろえる方法
動画マニュアルの作り方で参考になるのが、千葉県が2025年度に発注した「障害福祉サービス事業所等の各種申請等の手続きに係る説明動画制作業務委託」です。
事業所向けに、制度の概要や申請・届出の書類の書き方を説明する動画で、仕様書では20本以上の動画を作ることになっていました。書類の画面を映し、説明している箇所を赤枠や矢印で目立たせ、音声は読み上げソフトを使うよう指定されています。撮影をせずに画面と合成音声で作れば、たくさんの本数を効率よくそろえられます。
なお、横浜市が発注したシステム操作の動画(15本程度)は、1本あたり約12.7万円(税抜)で契約されています。詳しい内訳は、先ほど紹介した研修動画の記事で解説しています。
動画マニュアルの費用を抑えるコツ
費用を抑えるには、すでにある紙の手順書や操作マニュアルを制作会社に渡すのが近道です。説明の順番や言葉がある程度決まっているので、構成づくりにかかる時間を減らせます。システム操作の動画なら、画面に個人情報が映らないようにテスト用のデータを用意しておくと、後から画面をぼかす作業がいらなくなります。
また、同じ形式の動画を数本まとめて依頼すると、デザインや字幕の型を使い回せるため、1本あたりの費用を下げやすくなります。ナレーションをプロの声優ではなく合成音声にする方法もあり、手順が変わっても、声優に録り直しを頼む必要がありません。人の声で伝えたい冒頭のあいさつなどはプロに頼み、手順の説明は合成音声にするといった使い分けもできます。
動画マニュアルは内製と外注をどう分けるか|更新頻度で考える
動画マニュアルは、スマートフォンやパソコンの画面録画でも作れます。研修動画と大きく違うのは、業務の手順が変わるたびに作り直しが必要になる点です。そのため、「撮影が必要か」と「どのくらいの頻度で内容が変わるか」の2つで考えると、内製と外注を分けやすくなります。

手順がよく変わる動画は内製で回す
業務システムの画面操作や、数分で終わる簡単な手順の説明は、内製に向いています。特に手順がよく変わる業務は、変わるたびに外注していると費用も時間もかかります。社内の担当者が画面を録画し、字幕や矢印を足すくらいであれば、特別な機材がなくても十分に使えるマニュアルになります。
パソコンやスマートフォンに最初から入っている画面録画の機能でも、操作の流れを残すことはできます。大切なのは見た目の作り込みよりも、手順が正しく、最新の内容になっていることです。社内で作る場合は、「誰が、どのタイミングで見直すか」まで決めておくと、古い動画が残り続けるのを防げます。
撮影が必要で長く使う動画は外注する
現場での撮影が必要な作業手順や、ベテランの技術を残すための動画は、外注を考えたほうが安心です。手元の動きを分かりやすく撮るには、カメラの位置や照明、音の録り方に慣れが必要だからです。取引先やお客さまに見せる操作説明の動画も、会社の印象につながるため、プロに任せたほうがよいでしょう。
撮影が必要で、しかも内容がよく変わる場合は、最初の1本で見せ方の型を外注で作り、その後の差し替えは社内で行う方法もあります。外注する場合の進め方は「動画制作を外注する流れと依頼前の準備(https://um-cre.com/column/video-production-outsourcing-flow/)」で紹介しています。
生成AIで動画マニュアル作成を効率化する方法
最近は、動画マニュアルづくりに生成AIを使う会社も増えています。総務省の「令和8年版 情報通信白書」によると、何らかの業務で生成AIを使っている日本企業の割合は86.4%でした。生成AIを積極的に、または使う場面を決めて活用する方針の会社は、中小企業でも58.1%と、前年度の調査から大きく増えています。
動画マニュアルでは、今ある手順書からナレーション原稿や構成のたたき台を作ったり、字幕をほかの言語に訳したりする場面でAIが役立ちます。ただ、AIが作った文章には現場のやり方と合わない部分が混ざることもあります。最後の確認は、その業務を担当している人が行うようにしましょう。
動画マニュアル作成はどこから始めるか|最初の1本の選び方
動画マニュアルを全部の業務でいっぺんに作ろうとすると、時間も費用もかかり、途中で止まってしまいがちです。まずは効果が分かりやすい1本から始めて、少しずつ増やしていくのがおすすめです。
よく質問される手順から動画にする
最初の1本に向いているのは、新人から何度も同じ質問をされる手順です。「毎回同じ説明をしている」と感じる作業は、動画にした分だけ教える人の時間がそのまま浮きます。現場のリーダーに「新人に一番よく聞かれることは何か」を聞いてみると、動画にする候補がすぐに見つかります。ミスが起きやすい作業や、間違えると事故やクレームにつながる作業も、優先して動画にしたい手順です。
1本作ったら、見た人の声を聞いて直す
最初の動画ができたら、実際に新人や現場のスタッフに見てもらい、「分かりにくかったところ」「早すぎて追えなかったところ」を聞いてみましょう。作った側では気づきにくい点が、見る側からはすぐに分かることがよくあります。その声をもとに直してから2本目、3本目を作ると、話し方や見せ方の型が固まり、後の動画づくりがかなり楽になります。
動画マニュアル作成で失敗しないポイント5選
動画マニュアルは、作っただけでは効果が出ません。現場で実際に見てもらえて、はじめて役に立ちます。ここでは、動画マニュアルならではの注意点を5つ紹介します。

1. 1本は1つの手順、数分に区切る
1本の動画にいくつもの手順を詰め込むと、必要な場面を探すのに時間がかかります。新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2023年度に発注したシステム操作の説明動画では、操作ごとに区切りを入れ、1区切りを5分程度にするよう求めていました。手順ごとに短く分けておけば、現場で必要なところだけをすぐに見返せます。
2. 「どこを見ればいいか」をはっきり示す
動画では、見てほしい部分を見落とされることがよくあります。千葉県の仕様書では、説明している箇所を赤枠や矢印で目立たせるよう指定されていました。現場の作業なら、手元をアップで撮る、注意する動きの直前で一度止めるといった工夫で、見るべきところが伝わりやすくなります。
3. 外国人スタッフには「やさしい日本語」と字幕で伝える
外国人スタッフが見る動画は、ナレーションの言葉選びも大切です。出入国在留管理庁と文化庁が設けた会議がまとめた「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン 話し言葉のポイント」では、「はっきり言う」「最後まで言う」「短く言う」の3つを、話すときの基本として挙げています。ナレーションをこの3つに沿って作り、必要に応じて母国語の字幕を付けると、内容が伝わりやすくなります。
4. 読み原稿を残して、更新や翻訳に備える
業務の手順は少しずつ変わっていくため、動画マニュアルも見直しが欠かせません。千葉県の案件では、動画と一緒にナレーションの読み原稿も納品するよう求めていました。原稿が手元に残っていれば、手順が変わったときの修正や、字幕を別の言語に訳すときにすぐ使えます。外注する場合は、読み原稿や編集用のデータを納品してもらえるか、最初に確認しておきましょう。
5. 現場ですぐ開ける場所に置く
せっかく作った動画も、どこにあるか分からなければ見てもらえません。社内の共有フォルダや研修システムに手順ごとに並べておく、作業場所にQRコードを貼ってスマートフォンやタブレットからすぐ開けるようにするなど、仕事中に迷わず見られる置き場所を決めておきましょう。
動画マニュアルの作成・動画制作のご相談は株式会社um.へ
動画マニュアルは、教える人の負担を減らし、技術やノウハウを会社に残すための仕組みです。ただ、どの業務を動画にするか、どこまでを外注するかによって、費用も効果も大きく変わります。
株式会社um.では、ヒアリングから構成づくり、撮影、編集、ナレーションまで、動画マニュアルや研修動画の制作をまとめてお手伝いしています。「まずは1本作って、社内の反応を見たい」「内製と外注をどう分ければいいか相談したい」といった段階からでも大丈夫です。動画制作や動画マーケティングのご相談は、株式会社um.までお気軽にお問い合わせください。
出典
独立行政法人労働政策研究・研修機構「ものづくり産業における人材確保・定着と技能継承に関する調査」(2026年5月27日公表) https://www.jil.go.jp/press/documents/20260527.pdf
厚生労働省「『外国人雇用状況』の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)」(2026年1月30日公表) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_68794.html
千葉県「障害福祉サービス事業所等の各種申請等の手続きに係る説明動画制作業務委託仕様書」 https://www.pref.chiba.lg.jp/shoji/nyuu-kei/buppin-itaku/nyuusatsukoukoku/documents/dougashiyousyo.pdf
横浜市「【入札結果掲載】福祉保健システム操作基礎研修動画作成業務委託」 https://www.city.yokohama.lg.jp/business/nyusatsu/kakukukyoku/2024/itaku/kenko/fukuho20241018.html
国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「『プロジェクトマネジメントシステム』に係る操作説明支援動画制作業務」仕様書 https://www.nedo.go.jp/content/100968981.pdf
総務省「令和8年版 情報通信白書」生成AIの業務利用状況 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/html/nd121130.html
総務省「令和8年版 情報通信白書」生成AIの活用方針等 https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/html/nd121110.html
出入国在留管理庁「話し言葉のやさしい日本語の活用促進に関する会議」(在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン 話し言葉のポイント) https://www.moj.go.jp/isa/policies/conference/12_00053.html
